岐阜県の組合が今年作成した主要4アイテムの標準工賃を示すポスター。これも工賃アップの交渉材料にもなる
これまでなかなか上がらなかった縫製加工賃。
加えて、毎年必ずと言っていいほどやってくる閑散期。
縫製工場は、それらに長年悩まされ続けてきた。
しかし、その流れが今、変わりつつある。
オーダーはいっぱい
「仕事の問い合わせが殺到している」「縫製依頼が多すぎてこなせない」――。
岐阜市のアイエスジェイエンタープライズも、
「オーダー数はキャパシティーを20~30%上回っている」。
どの縫製工場も仕事であふれかえっている。
オーダー増加は様々な要因がある。
一つは海外生産の環境激変がある。
原料高、物流費アップ、円安などで「海外調達コストが高騰している。
アイテムとロットによっては日本で作る方がメリットがあると判断されるケースが増えたのでは」
と工場関係者は指摘する。
加えて、世界的に新型コロナの感染状況が拡大と縮小を繰り返し納期などが不安定なほか、
ウクライナ問題で海外生産に対する不安感が強まっているのも国内生産回帰につながっているとの見方もある。
さらに、この数年、倒産・廃業が相次いで、国内工場の絶対数が減少していることも理由と考えられる。
生産キャパシティーが逼迫(ひっぱく)している状況は、裏を返せば縫製工場にとっては、
仕事の選択余地が大きくなっているとも言える。それは工賃交渉にもプラスに作用するはずだ。
ある工場だと
「ブラウスの工賃が仮に3000円とした場合、今までは上げてもらって、せいぜい3100円。
これを4000円まで上げてもらわないと、もう受けられないと正直に伝えていくことが必要」と力を込める。
勇気出して交渉を
アイエスジェイエンタープライズは、縫製加工賃アップについて、
「工場が勇気を出して声を上げていかなければならない」とし、
「我々は10年後を見据えてやっていく必要がある」と強調する。
各社の縫製加工賃アップの動きの背景について、ある工場経営者は、
「最低賃金の上昇など様々な要因で、ここ10年で20%近く人件費が上がっている。
工場で使うボイラー費も高くなっている」と国内でもコスト上昇は止まらない。
しかし「今までそれを縫製工賃に転嫁できずにいた」。
急激なコスト上昇は1社の企業努力の範囲を超えている。
「最低限お客様(発注元)にも負担をお願いしている部分も大きい」と強調する。
工場も単なる加工賃の値上げではなく、同時に付加価値の高い物作りの追求も行う必要がある。
技術とのバランスが取れていない加工賃アップは長くは続かず、ビジネス環境次第で、再び単価競争に巻き込まれかねない。